『高さ15メートルの崖から、滝壺に落ちて死んで貰います。』
紅葉の北軽井沢。爽やかな、沢を渡る風に吹かれながら、
撮影隊一行は、滝壺に集まった。
「うわあ。うめえ!」
スタッフの一人が滝壺の水を掬って飲んだのだ。
皆が、我もと手を突っ込む。
「つ、つめてえ~~!」
秋とはいえ、長野県の標高1500メートルの高地。
まもなく、初雪の話題が出てもおかしくない、場所だ。
そうそう、崖から落ちるところの撮影は、午前中に、
ピアノ線を腰につけて、
エイヤ!っと飛び出して、OKが出ていた。
ってえこって、問題は、滝壺の死体だ。台本的には、
死体になるシーン
死体が発見されるシーン
警察が鑑識するシーン
に分かれる。
つまるところ、何回も入水しなければならない。
へへ~ん、どうせこんなこったろうと、ちゃっかり、
ウインドサーフィンの
冬用のドライスーツを持って来ていた。
本番、用意スタート!
(ウワオ、ち ちめてえ)
思ったより、冷たい。そうか、ウインドサーフィンは海だった。
ここは、川だ。この冷たさは、きっとビールも冷やせる。
本番、スタート!
(うう、手の感覚が無え。唇も痺れてきたあ)
死体なのに、震えている。
『大丈夫ですか?』
「カチカチカチカチ・・・」
本番スタート!
(お、お花畑にタンポポが咲いてるぞぉ・・)
スタッフ『監督、イシマルさん、もう、駄目ですわ』
カントク「よし、もういっちょ行こう」
スタートお!
(♪~ら~らら~
この撮影の10日後、
肺炎を起こして、
入院してしまった。
肺炎と、滝壺の因果関係は、定かでない。
その10日間に、もう一本、ドラマで、殺害されたのでね。
面白いなあこの世界。
いいなあ、あの人達。