友人のK君、お腹がゆるい。
常に、トイレットペーパを持ち歩いている。
トイレを探しながら生活をしていると云ってもいい。
トイレ探しが人生の目的にすり替わる事すらある。
以前、そのK君と喫茶店に入った事があった。
ざっと見渡すと、20人程の先客がいる普通の喫茶店だ。
軽いノリの音楽がかかっている。
客のざわめきもナカナカのもんだ。
コーヒーを注文するや、さっそくK君席を立ち、
トイレへ向かった。
暫くした時だった。
突然、明かりが消えた。
停電である。
当然、ミュージックも消える。
店内薄暗くなり、シーンと静まり返った。・・そのとき
ドンドンドン!
静寂が大声で破られた。
『おお~い!入ってるぞ!電気点けろ!
ドンドンドン!誰だ、電気消したのは!入ってるって言ってるだろが!おまえか?イシマル?ふざけるなよ!』
あまりの事に誰も口をきかない。
一瞬で状況は飲み込めたようだ。
ドンドンドンドン!
『おお~い!いいかげんにしろよ!誰だ?点けろって!ッタクッ、何も見えんだろが、クソっどうなっても知らんぞ!誰だああ!紙が見えねえじゃねえか・・足痺れてるしぃ・・』
ドンドンドン!
とその時、突然明かりが戻ってきた。
同じくミュージックも戻ってきた。
ただし、客の会話は戻ってこなかった。
バタン!
K君が肩を怒らしてトイレのドアから店内を睨み付けている。
客達は皆、彼が
どこに向かい、
どういう態度をとり何を喋るのか注視している。
K君の足がゆっくり、こちらに踏み出した。
(
頼む、戻って来ないでくれ)
願いむなしく、イシマルの正面に怒れるK君がドサリ。
『ったくよ~今さあ、ひでえ奴がいてさあ~』
(
頼む、黙っててくれ)
『どいつだろな?聞いてくれよ。俺今、暗闇でケツ・・・・・』
コーヒーが届くや、一気に飲み干し店を出たのはいうまでもない。