
プルルル~プルルル~
「逆探知準備OKです。」
「お父さん、どうぞ」
誘拐事件の2時間ドラマの収録である。
イシマルは、息子を誘拐された父親役だ。
「テストいきま~す」
犯人から電話が繋ってくる。
目の前には、刑事役の三浦浩一がデンと座り、
画用紙とマジックを手に文字を書いている。
『タカシは無事でしょうか?』
『え?いくらですって?』
緊迫した状況で、電話している父親の額に汗がにじんでいる。
目を上げ、三浦刑事が画用紙に書いた文字を見ると、
<引き伸ばして>とか
<金額>
などと短く記してある。
パニックに陥りそうな父親は、目が血走っている。
その時、画用紙にこの文字が・・
<
子供の声>
息子の声を聞かせて欲しい・・と犯人に頼め。
そう刑事は言ってるわけだ。
そこで父親イシマル、ふとアイデアが浮かんだ。
パニクリを起こしそうな状況で、
父親は正常な判断は出来ないに違いない。
台本のセリフはこうだ。
『声を聞かせて下さい』
それを、とっさにこうやった。
『
声を聞かちぇて、くだちゃい』
かん高い子供の声で喋ったのだ。
この父親は、興奮のあまり、刑事の文字
<
子供の声>を誤解したのだ。
<
子供の声で喋れ>と。
きっと現実には、しばしば起こっているに違いない。
カ~~ットオ~!!
カントク「ん~・・・・・・・・それ、どうしてもやりたい?」
イシマル『あ~・・・・・・・・いえ』
「はい、テストいきま~す。」
イシマルの素敵なアイデアは、冷たい視線と共に、
却下され、むなしく埋没して行ったのでした。
本番が終わった後、三浦浩一が声を掛けてくれた。
「アレ、やりたかったね。」