
『8号車、7Aですよね?』
新幹線の通路での会話だ。
『すみません、その席、私のなんですが・・』
その席と言われた御仁、慌てて、ポケットの中から
自分の切符を取り出す。
<8号車、7A>
同じだ。
間違った新幹線に乗ったのかと疑い、確かめる。
同じだ。
日にちが違うのかと思い確かめる。
同じだ。
その方は神戸から乗った。
私は、大阪から乗った。
『車掌さ~ん』
車掌さんが飛んできた。
二枚の切符を見比べる。
目が点になっている。
今時、チケット(切符)がバッティングする事など、無いらしい。
コンピューターがとても賢くなっているので、
同じ席を売る事など、あり得ないらしい。
その、あり得ない事が起きているので、目が点になっている。
目が点が、同僚を呼んだ。
やがてやって来た同僚が二枚の切符を見た途端、
同じく目が点になった。
目が点だらけはいいんだけど、
私はどこに座ればいいんでしょ?
さあ、ここからがいけなかった。
『こちらのお席にどうぞ』
二人の乗務員に
前後を挟まれて案内される。
悪い事に、この新幹線は
満席状態だった。
どういう訳か、前を歩く乗務員が親切に荷物を持ってくれた。
くれた挙句、しょっちゅう振り返る。
後ろを歩く乗務員は、目つきの鋭い、職務に忠実な方だった。
さて、通路を歩くこの3人を、一般乗客は、どう見たか?
『はは~ん、こいつ警察にしょっ引かれるんだな』
『無賃乗車だな』
『痴漢だな』
身に覚えの無い、コンピューター君の間違いのセイで、
善良な市民イシマルが、新幹線の車中、
悪い事をした人になったのである。
そして、通路で何度も3人で、
2枚の切符を眺め、
『ひえ~スゲェ~~~!あるんだこんなの!』