
ドッカン!
後ろからブツけられた。
いわゆる、車でオカマを掘られた。
ちょいと前の話だ。
踏み切りで止まっていた。
夜中の12時を過ぎている。
撮影が終わった帰り道に、よりによってそんな時間に
踏み切りに引っかかった運の悪い役者だ。
ドッカン!
おっと、面倒だな。
明日(いや今日)の出発は朝6時だというのに・・
しょうがない、車を降りて、後ろの車に向かう。
ふむ、普通の乗用車だ。
誰も降りてこない。
もしもし
ガラスのウインドウを降ろす様に手で合図する。
ブイ~~~ン
ウインドウが降りるや、目がとろんとした女性が顔を出す。
口を開いた途端、こんなセリフ。
『
アンタも飲んでンでしょ』
年の頃50代の飲み屋(バー)のママ風である。
『アンタも飲んでンでしょ』
とは、凄い。
あんたも、こんな時間に運転しているなら、
きっと飲酒運転をしているに違いない。
だから追突事故を、警察に連絡する筈ないわよね。
と脅している訳だ。
同罪なら、届けるはずが無いとの主張を
ウインドウが開いた瞬間に、
凝縮したセリフで喋ったのだ。
やには、車から降りてきたのだが、歩く事もままならない。
目の焦点が定まらないどころではない。
あっちにバタン、こっちにボカン。
酔っ払ったフリをする下手な役者以下だ。
まともに立てない状態で、そのセリフだけは言えたのだ。
『アンタも飲んでンでしょ』
と云う事は、
常々、使っているって事だな。
これまで、このセリフを吐いて、何度か成功したんだな。
つまり、何度か、ブツけているって事だな。
感心しながらも、
車の弁償より、翌日のロケの方を優先した私が
その場を、立ち去ろうとした時、
追い討ちの言葉がかかった。
『
ほうらみろ、この、よっぱら~い』
は~い残念でしたねえ、彼女はそれさえ言わなければ、
無罪放免になったかもしれないのに、
結局、警察のお世話になる羽目に。
せっかくの
いい決め台詞のあとに、
蛇足はダメよ。