
『
そのままでいいです』
ぶらり本屋さんに行く。
気に入った文庫本を手に取り、レジに向う。
『
そのままでいいです』
この言葉は、文字通りの意味である。
そのまんま渡してちょうだいな・・という意味だ。
なぜそんな事を、レジで言うかというと・・
本屋さんの当然の如くのプレゼントに
反旗をひるがえしているのだ。
ねえねえ、本屋さんて、過剰包装してない・・?
今日も、気に入った文庫本を手にとり、レジに並ぶ。
さして混んでいない。
私の前には、ひとりの男性が数冊の本を買い求めているだけだ。
だけだ・・と簡単に述べたが、
あらまあ、その数冊の文庫本を、レジ係の方が
一冊づつカバーで包み始めた
さすがに慣れているのか、包み方が流れる手つきで
面白い。
ヘリをあっという間に折り込み、
出来上がった文庫本は、外見からは、何の本なのか
全くわからない。
あれは何の為なのだろう?
本を大切に扱えという意味だろうか?
それとも、商品は包むべしという日本の伝統だろうか?
待った。待ち続けた。
そして、やっと私の番だ。
『
そのままでいいです』
レジ係りは、バーコードにピッとやった後、
カバーに包み始めた。
『
そのままでいいです』
しおり を挟み始めた。
『
そのままでいいです』
サービスカードを挟み始めた。
『
そのままでいいです』
輪ゴムをはめようとする。
『
そのままでいいです』
下からゴソゴソ出してきた袋に入れ始めた。
『
そのままでいいです』
(あのねぇ、さっきから何回も『ぞのままでいいです』を
繰り返してるんですよ。どうぞ、そのまま渡してください)
・・という、ノドから出そうになる言葉を押さえながら、
本を掴もうとすると、
「680円です!」
ああ、なるほど、代金を払っていなかったのね。
1000円札をカウンターに置く。
『
そのままでいい・・あぁ、いや、お釣りください』