<家が歩く> のを見たことがありますか?
歩く・・なんて、意味わかんないよね。
40年も前の事だ、大分県に台風が来た。
凄まじい風だった。
「こげな強ええ風、初めてじゃ」
隣のじいさまが仰る。
『おおい!家が歩いちょるぞぉ~!』
向かいのじいさまがどなる。
「家が歩きよるっちゃ、どげんこつな~」
裏のじいさまが吠える。
私が住んでいた丘の上に、ポツンと一軒の家があった。
昔ながらの、しっかりした家だ。
大黒柱が家全体を支えている、日本家屋だ。
その家が・・
歩いていると云うのだ。
ソレっ!
みんなで見に行った。
外は、子供が歩けない程の暴風雨だ。
這うようにして進み、丘の上のその家を見上げる。
確かに!
確かに、家が歩いている。
いや、右に進んでいる。
わずかづつであるが、紛れもなく進んでいる。
どういうこっちゃ?
よおく見てみると、家全体が、上下に動いている。
ほんの少しだけ、家が持ち上がり、
ドスンと落ちる。
云わば、小さなジャンプを繰り返しているのだ。
風の力で・・
風って、そんなに強いの?
というより、家って、
全部が持ち上がるもんなの?
そうらしいのだ。
当時の日本家屋は、屋台骨の柱が、
土台の
石の上に乗っていたのである。
現代のように、コンクリーで固められていない。
従って、大黒柱と、梁がしっかりしていさえすれば、
持ち上がるのである。
風を受けて、フワリと浮き、ちょいと横に落ちる。
フワリ・・・ドスン・・・フワリ・・ドスン
この繰り返しである。
家が歩いている様に見えても、不思議ではない。
昔ゃ、不思議な事が、ちょくちょく起こっていたようじゃな。