ポトンっ
壁と棚の間に、モノが落ちた。
瓶のフタだ。
隙間を覗くと、見える。確かに落ちて転がっている。
腕を伸ばせば届きそうだ。
よし・・・
膝まずき、そろそろと右腕を伸ばす。
右目を隙間に押し当て、覗き見る。
んん~届かない・・20cmほど。
よし・・
お尻をドスンと床におろし、右腕を伸ばす。
指先を懸命に伸ばす。
んん~やっぱり届かない・・10cmほど。
惜しいといえば、惜しい。
しかし、10cm届かないのも、50cm届かないのも、同じである。
諦めるか・・いやいや、もうちょっとやってみよう。
胸のあたりまで、床に身体を押し付け、右腕を伸ばす。
つまり、
寝そべっている。
指先をカリカリしてみる。
肩の辺りから、グイっと伸ばしてみる。
肘の関節にも協力を促して、5ミリほど、伸ばさせて貰う。
う~む、まだ届かない。あと、2~3cmだ。
よおし、こうなったら、こうだ!
首よ折れろ、とばかりに、倒れこみ、
肩の肉が食い込まんばかりに、隙間に突っ込み、
リズミカルにグイグイっと、伸ばす!伸ばす!伸ばす!
駄目だ、これ以上無理だ。
でも、ここで止めたら、
今までの苦労と身体に付いた埃が無駄になるな。
よおし、駄目元で、最後にもう一回!
グイグイグイ・・
おっ触った!
爪の先っちょで、カリカリする。
僅かだが、近寄ってくる。
ミリ単位で近寄ってくる。
おっおっ取れた取れた!
指の間に挟んだ!
結果、無事たかが瓶のフタが取れたのである。
だが!
ワタシの腕は、どこをどうして、20cmも
伸びたのだろう?
医学的には、腕が伸びるとは考えられない。
膝立ちから、寝そべったとて、20cmもの距離を縮めるだけの
サインコサインになっていない筈だ。
しかも、
もう限界だと思ってからの、2~3cmの伸び
はいったいどう説明する?
おそらく、日本野球界の重鎮、星野仙一監督ならば、
こう述べられるに違いない・・
「気持ちだよ、気持ち!」