銭湯に行った。
それも東京は江戸っ子の下町、
両国の銭湯に行った。
両国と云えば、お相撲さんの両国である。
ちょんまげの町である。
その銭湯に入ったのである。
自分の洗面器を持っていった。
シャンプーもリンスも石鹸も、持参で行った。
すなわち、正当な銭湯の入り方である。
ガラガラガラ
「いくらですか?」
イシマル君、銭湯の値段がすでに分からなかった。
そう云えば、前回銭湯に入ったのはいつだろう?
10年前?20年前?
『430円です』
番台のフクヨカなおばちゃんが、応えてくれる。
「この髭剃りも下さい」
『100円』
さあ~着替えるぞ~
着替えるくらいで、それほど盛り上がる必要なないのだけど、
銭湯の着替は楽しい。
服を脱ぐという動きは楽しい。
人前で、堂々と、思いっきり服を脱げる自分が楽しい。
カラカラカラ、ガラスのドアを開ける。
ココ~ン、だれぞが使うケロヨンの桶の音がコダマする。
銭湯の良さは、何と言っても、天井の高さだ。
反響のよさだ。
残響の多さだ。
すぐ隣の女湯で喋っている内容が全く聞き取れない。
あまりの残響でワンワンしている。
下湯を使い、いざ、湯船へ・・
チョン
足先をつける。
ひえ~~~~!
熱っっっっつい!
そうだった、ここは、泣く子も黙る
江戸の下町の銭湯だった。
大工の棟梁が、足繁く通っている生粋の銭湯だった。
「ぬるま湯なんか、使ってぇんじゃねぇ!」
カミナリを落とされる銭湯だった。
ここで、入らなければ、男がスタル。
忍の忍の忍!
無理やり、片足を膝まで、没したが、
表面の皮がピリピリして、はがれそうである。
ええいままよ!
腰の辺りまで、ズブズブと沈める。
ぎゃあ~~~~!
心臓が止まるぅぅぅぅううう~~~!
男をスタラして飛び出した。
無理だ。おいらは、江戸っ子になれない。
猫舌、猫肌のおいらには、江戸っ子は無理だ。
と・・その時、
隣の浴槽に浸かっていた、ジィさま。
ダーウインさんに、わざわざ教えて頂かなくても、
人類の祖先がすぐにバレテしまう、生ける見本のジィさまが
のたまわれた。
「そっちゃあ ぬるくて はいれんわぃ」