
上の写真のマシンは、<ターレー>と言う。
築地魚河岸では、愛称として、<バタバタ>と呼ぶ。
大八車で運ぶより、大量に運べ、体力もいらないので、
重宝されている。
ただし、場所を取りすぎる。
魚河岸の狭さから考えると、一つの仲買いで一台しか持てない。
少なくとも、30年前はそうだった。
我ら働いている従業員は、バタバタに乗りたかった。
大八車の10分の一の体力で済むのである。
常時いる従業員は6人である。
でも、働いてきた年数などで、上下関係がある。
当然、上の者が、優先的にバタバタのエンジンを掛ける。
一番
シモのイシマルなどは、
バタバタのハンドルに触った事すらない。
時折、走っているバタバタにヒョイと飛び乗り、
ヒッチハイクをするくらいである。
ところが、就業年数が相当上の某
オイチャンが、
バタバタに乗れない事が分かった。
なぜか?
実はこのバタバタ、
50CCの運転免許がいるのである。
しかし、オイチャン免許を持っていなかった。
よおし!50CCならば、筆記試験だけで受かるってんで、
オイチャン、毎週のように、免許試験に出かけて行った。
ところが、毎回、不合格になるのである。
それとなく聞いてみると、20数回不合格になっていると言う。
このオイチャン、みんなで割り勘なんかすると、
物凄く速い計算が出来る。
新聞のクロスワードも誰よりも得意だ。
では、いったいなぜ?
このオイチャン、非常に真面目な方だった。
生粋の下町江戸っ子である。
曲がった事が嫌いだった。
皆さん、運転免許を持っている方なら、分かると思うが、
免許の筆記試験という奴は、<ひっかけ>問題があったよね。
あの
ひっかけに、コトゴトク
引っかかっていたのだ。
例えば、昔はこんな問題もあった。
《盆、正月の振る舞い酒ならば、少々であれば、
飲んで運転してもいい》 ○か×か
江戸っ子のオイチャン、
「そいなモン断ったら、失礼じゃねぇかぃ!」
《店舗への積み下ろしであれば、駐車禁止の場所でも駐車出来る》
「出来なかったらょ、魚どうやってお店届けるってんでぃ!」
すべてがこの調子である。
しかして、不合格の記録は更新されていく。
そのおかげか・・
時折、私に、バタバタに乗れる機会が回って来る様になった。
その後、オイチャンは免許受かったのだろうか?
違った意味で、毎回引っかかり続けて欲しいと思ったものだ。
貴重な、美しい日本人として・・