
今、ハエが私の刺身の器に止っている。
例によって、足をスリスリしている。
と言った私は、
とある飲み屋にいる。
飲み屋のカウンターに、一人で座っている。
ひとりで、日本酒をチビチビやっている。
カウンターの中にいる板さんは、と云えば、
<そうとうな板さん>だ。
<包丁一本さらしに巻いて旅に出た>系の板さんだ。
その包丁一本板さんからは、コイツは見えていない。
コイツとは、くだんのハエだ。
秋刀魚の刺身に少しづつ、少しづつ近づこうとしているハエだ。
さてこの私、このハエ問題で、困った。
通常ならば、「ええいウルサイ!」とばかり、
ハエを手で追い払えばいい。
しかし、待てよ。
この店は、包丁一本のあの大将が仕切っている店である。
間違っても、ハエを店の中に進入させている筈のない店である。
ハエはおろか、蚊一匹、言わせて貰えば、
杉花粉一個進入させません!
の心意気をプンプンとさせている店である。
ほんでもよ、今私の目の前の、刺身が脅かされているんだわな。
秋刀魚の刺身が、汚染されようとしているのだわな。
これって、大将に、告訴していいのかな?
告訴すると、恐らく、とんでもなく大騒ぎになるだろうな・・
ハエ退治に騒ぎ、
弟子叩きに騒ぎ、
私へのアヤマリに騒ぎ・・・
ふんだったら、黙っていようかなぁ~
黙って、汚染刺身を食べようかな~
ふんでも、気になるなあ~このハエ・・
つい何気なく、くだんのハエを追っ払ってしまった。
ヒョイ!
その途端、
『ハエが!いたっとですか!!!!!』
<!>オッタマゲーションを連発して、
くだんの大将が騒ぎだした。
すでに、包丁を高々とかざしている。
・・・・・
すびません。
その後の顛末をしたためるには、紙面が足りない。
たかがハエ、されどハエに翻弄される我らって、
お馬鹿だね。