
小学校の頃から、納豆を食べていた。
しかし、食料がまだまだ豊富でない時代。
我が家もごたぶんに漏れず、納豆の量が少なかった。
5人家族で、朝、ワンパックである。
パックと呼ぶのは、おかしいな。
一藁包みである。
足りる筈もなく、母親がその中に、大根おろしだの、
ネギだの、鰹節だの、ちりめんじゃこだの、グジャグジャと
混ぜ込み、
偽装増量をしていた。
だから、一人頭の大豆の粒は少なかった。
「いつか、納豆を腹いっぱい食べてみたい・・」
ほのかな願いを、小さな胸にしまいながら、大きくなった。
大きくなってからも、願いは同じだった。
「いつか、納豆を腹いっぱい食べてみよう」
そんな願いなんて、簡単に叶えられる筈である。
買ってきてコネればいいんだから・・
しかし、事はそううまくは運ばない。
やってみようと思っても、
なぜか、
心にブレーキが掛かってしまう。
(そんな大それた事をしていいのか)
ふんぎりがつかない。
そうそう、あれは、目一杯大きくなり、40才を越えた頃だ。
友人3人とウインドサーフィン合宿を行なった。
朝飯を私が作る事になった。
4人分の食材を買い込む。
当然、納豆を3パック×2=
6パック仕入れる。
トントト、トントン~
早朝から、ネギを刻む音高らかに、朝餉の鼻歌が流れる。
6パックの納豆を丼に掻き出し、混ぜくる。
ほう・・・
納豆も6パック分ともなると、粘りが激しく、
混ぜくるのに、力が要る事が分かった。
正しいハシの持ち方では、指が疲れるので、
正しくない
握りバシで混ぜくる。
そこに、辛子、ネギ、卵黄を混ぜ、出来上がりだ。
大量の粘り糸が膨れ上がり、丼に盛り上がっている。
「飯だぞ~」
3人は、起きてくるなり、
『・・あ、俺、納豆駄目』
『・あ、俺も駄目』
『俺も』
え~うっそ!
3人とも、食えないの~?
どうすんだよ~この納豆・・・
そう、
長年の願いが叶う瞬間が、訪れたのである。
はからずも・・
うん、食べました、全部。
でもね、理解しました。
納豆には、
適量のご飯が常にないと、美味しくない事実を。
あまりの量の納豆の為、ご飯をチビチビしか食べられなかった。
ご飯1に対して、
納豆4くらいの割合になってしまった。
ううぅ・・
「いつか、ご飯に適量な納豆を腹いっぱい食べてみたい!」