そういえば、これまでホテルや旅館に数あまた宿泊してきたが、
玄関の黒い板に、名前を書いて貰った覚えが無い。
ああいうのは、団体名を書くものだと思い込んでいた。
個人名は書かないものだと、勘違いをしていた。
勘違いの原因は、旅館の予約をしたことが殆どないからだ。
いつも飛び込みなのだ。
フラフラ入るのだ。
旅館の表まで、行って、勘で決断するのだ。
ところが、昨日語った、ドブ汁旅館は予約をしてしまった。
「ごめんくだ・・」
旅館の玄関に到着し、入り口の歓迎の文字の下の名前を見て、
飛び上がった。
私の名前が歓迎されている。
生まれて初めての事なので、一瞬どうしていいのか分らなかった。
とりあえず、記念写真に収めた。
黒板に白文字。
この文字を良く見てて下さいネ。
さて、30分ほど、散歩に出かけ宿に戻ってきた。
その時、引っかかるものがあった・・何かが違う。
じ~と先ほどの歓迎カンバンを眺める。コレが、その写真だ。
一番右のお客の名前が、変更されているではないか!
目 ⇒ 貝 め から かい へ
私が、散歩をしている間に何が起こったのだろうか?
イシマル探偵事務所が推理をしてみた。
「いらっしゃいませ~」
『あの~割貝ですけど・・』
「はいはい」
『表のカンバンなんですけど・・
メじゃぁないんで僕ら・・』
「はっ、○○○さんじゃないんですか?」
『その言葉を
口にしないで下さい』
「ネット予約された○○○さんですよね」
『ですから、
そう呼ばないでください。ワレガイです』
「あらまぁ、てっきり○○○さんだとばかり」
『だからぁ、
それを口にしないでってばぁ』
ワレガイと読むのかワリガイなのか、分らないが、
このお客は、恐らくしょっちゅう間違われていると思われる。
そして、この方の場合、それが、とても
恥ずかしいのだ。
祖先から受け継いだ立派な姓なのに、
30年ほど前に、
「これからは、正式名称をこう呼びます」
政府が
恥ずかしい決定を国民に発表したものだから、
時折、顔を赤くしてしまう。
堂々と間違いを指摘出来ない事に、さらに苛立ちを覚える。
苦労する名前もあるんだなあ・・・
と感慨深く、ふと隣に並ぶ名前に目をやった。
ん?
この5人の名前、私と大平さんは、まあ、普通だが、
他の人たち、いったい何と読むの?
特に私の右の方が、役者でない事を祈ろう。