
40年近く前の事、東京駅から、九州の西鹿児島駅まで、
急行列車が走っていた。名前を<高千穂号>といった。
年末の帰省に、故郷大分まで利用していた。
確か大分駅まで、28時間掛かった記憶がある。
それだけ掛るというのに、決して寝台車ではない。
あくまで急行だ。
年末というラッシュ時であるからして、
列車内はすし詰めの満員である。
通路も、デッキも
破裂せんばかりの混み方だ。
都心の山の手線の朝のラッシュと変わりない。
一端走り出すと、次に止まるまで、身動きも出来ない。
顔が痒くても、掻けない状態といえば、分るだろうか。
「痴漢で~す!」
と、たとえ言われても、動く部分は首から上だけだ。
勿論、トイレの前まで、ギュウギュウの状態なのだから、
トイレに行く者など誰もいない。
いない・・のではなく、行きようがない。
しかも、この状態が
10数時間変らない。
誰も降りない、乗ってもこない。
私を含め、
立っている人達の疲労は、大変なものがある。
急行であるからして、時々停まる。
すると、
ドドドドドォォ~~
ホームに雪崩れおち、倒れこみ、深呼吸をしている。
確か、岡山を過ぎた辺りだったろうか・・
ようやく、少し空きが出来、
床に座った記憶がある。
そんな光景を眺めていた、座席に座る白髪の男性がのたまう。
「君たちゃ楽じゃなぁ。ワシらの頃は、
デッキの外の
手すりに手拭いで、手を縛り付けてな、
半分ぶら下がりながら、帰省したんじゃぞぉ。
命がけじゃぁなぁ。
しかも、蒸気機関車じゃったんで、トンネルに入るとヨ、
煙がモクモクで、死にそうじゃったぁ、ゴホゴホ」