<流しそうめん> はご存知ですよね。
食べた事ありますか?
今では、流しそうめんを家庭で食べられる機械も売られている。
では、<
流しそば>ってのは?
んなの、有る訳ないやね・・と思っていたら、あったのだ。
岩手県の南部、釜石市からちょいと奥まった所に、
洞窟がある。
<滝観洞> (ろうかんどう)
滝と書いて、
ろうと読ませるくせに、
振り仮名を打っていない鍾乳洞である。
なぜ、
ろうと読むんですか、の質問に、
誰も答えられない鍾乳洞である。
さて、その鍾乳洞の入り口近くに、その店はある。
500円を払って、窓際の席に進むと、
つけ汁とわさびとネギを渡される。
目の前を見ると、窓が大きく開いており、
狭い谷を隔てた向こうに、小さな掘っ立て小屋がある。
そこの壁から、幾本もの竹筒が、
こちらの席に向かって放射状に伸びている。
その竹筒の一本が私の権利竹なのである。
スタイルはそうめん流しを真似ている。
やや違うのは、最後がザルで受ける所作だ。
そして、そうめん流しがそうである様に、
麺を流す人間の姿は見えない。
いや、見せて貰えない。
あくまで、人が流しているんではないよ・・
そこに座っていたら勝手にそうめんが流れてきちゃった。
ならば、掬って食べよう!
という暗黙の了解の元に、この食事は成り立っている。
よし、了解した。さあ来い!
っと意気込んだ私の、後ろにいた係員が大声を出す。
「は~い、8番さん、流してぇ~お願いしまぁ~す」
『あいよぉ~』
谷の向こうの
いない筈の人が返事をする。
ふむふむ、そば流しのシキタリは、隠れたフリであったか。
隠し事はしない線でいこうと云う事らしい。
それなら、それでいいぜ。
さあ、来い!
おっ、もう流れてきた、一口大だ。
ひょいと掬い取り、ツユにつけズルズル・・
アレッ、まだゴクンをしていないのに、もう流れてきた。
結構忙しいな。
っとハシを伸ばしたら、更に、次なるそばが・・
え~結構忙しいどころじゃないぞ。
これは、懸命にかき込まなければ!
ズルズルズルズル!
おいおい、どんどん流れてくるな。
ジュルジュルジュルジュル!
そうか、そうだった、ここは岩手県だ。
県庁所在地は盛岡だ。
盛岡と云えば、<わんこそば>だ。
そうなのだ、<わんこそば流し>状態なのだ。
「すみません、もう止めてくれます?」
後ろの係員にお願いする。
「8番さん、お終いだそうで~す」
『は~い、ちょうど終わってま~す』
いない筈の人が大きな声で応える。
少し、恥ずかしい。