40数年前、まだ世の中にエスカレーターが殆ど普及していなかった頃、
エスカレーターに乗るのには、力量がいった。
止まっている所から、ヒョイと乗ると、後ろに倒れそうになった。
それでも、若者は次第に、その動きに慣れていった。
ところが、当時のお年寄りは、そうはいかなかった。
特に、
お婆ちゃんが問題だ。
手を引いて貰い何とか乗ろうとするのだが、
最後の一歩が踏み出せない。
それでも、頑張って足を踏み出したものの、
連れの人を巻き込んで転倒している。
殆どのお婆ちゃんは、エスカレーターに乗れなかったのだ。
現代のお婆ちゃんは、普通に乗っている。
といっても、運動神経が良くなった訳ではない。
まだお婆ちゃんになる前から、乗れていたからに過ぎない。
<エスカレーターに乗れないお婆ちゃん>
そんなお婆ちゃんを、ある意味優しい目で、
皆は笑っていたもんだ。
「乗れないのぉ~ツル婆ちゃん」
子供達は、からかいの言葉をかける。
そこで、あなたに是非試して貰いたい実験がある。
夜遅くなどの時間帯の理由で、
止まっているエスカレーターってあるよね。
アレに乗って貰いたい。
普通に歩いて行って、そのまま歩き続けてみて下さい。
「そんなん、簡単じゃん」
と思った、あなた・・
そうは、いかんのじゃ!
我々は、エスカレーターに完全に騙されている事に
気づいていない。
長い間、乗り続けた影響で、
脳は、こう考えているのだ。
<エスカレーターは、常に動いている>
目の前にある銀色の階段が、全く静止している事実は、
解っているにも拘らず、脳みそは足に、
そいつは動いているよっと無意識の命令を出すのである。
すると、どうなる?
歩いて行き、銀色の境界を越えた所に一歩、踏み出した途端、
つんのめるのだ。
足が普通に歩いてくれないのだ。
実験を敢行した私は、驚いてしまった。
そんな筈はない! っともう一度戻り、
再度挑戦する。
今度は、しっかりと自分に言い聞かす。
「銀色は動いていないかんネ!ただの階段だけんネ!」
歩きだした私は、愕然とする。
又、躓いたのだ。つんのめったのだ。
なんで、なんで?
いくら錯視とはいえ、そんなに何度も引っ掛かるか?
そうなんです、引っ掛かるのです。
降りる時も、やはり引っ掛かるのです。
是非、試して頂きたい。
そして、我々は、優しく笑われているのだ。
かのお婆ちゃんに・・
だって、止まっているエスカレーターなら、
お婆ちゃんは、躓きもせず歩いて行くだろう。
ただの階段に過ぎないのだから。
ごめんね、お婆ちゃん、昔、笑ったりして・・