ある晴れた、昼さがり、市場へと続く、与論島の小道を
トボトボと歩いていたら、
子牛がゴトゴト、トラックで運ばれていた。
もしも、子牛に知恵があ~るなら、自分が売られて遠くに
旅立つことが分かるものを・・・
もしも、子牛に願いがあ~るなら、少しでも高く売られて、
蝶よ花よと可愛がられたいものを・・・
ドレドレド~レェ ド~レェ~
仲買人の目が光る。
どこかで聞いたフレーズを拝借した、その晴れた小道の先は、
与論島の牛市場なのであった。
黒毛和牛の子牛が、毎月セリに掛けられるのである。
本土から、買付に来た仲買人たちによって、
生後8か月ほどの子牛に値段が付けられてゆく。
ある晴れた日に通りかかった私は、そのセリ風景を見てしまった。
子牛の潤んだ瞳を知ってしまった。
「はい、25万から、お願いします!」
アナウンスが流れる。
一匹の子牛が、引き出された。
耳に、タグが付けられている。
300人ほどが詰めかけた会場の、上方の電光掲示板に、
子牛の体重と、
メスか、
オスか、
去勢オスかが表示される。
その下の金額の数字が目まぐるしく動き、
仲買人たちの思惑が、躍動する。
やがて、数字がピタリと止まり、
その子牛の旅立つ料金が決定した。
《43万3000円》
わずか、10秒間の子牛の運命決定であった。
すると、会場のどこかから、か細く年深い女性の声が挙がる。
『ありがとうございました』
たぶん、売主の方であろう。
大切に育ててきた子牛への感謝の現われだろうか・・
セリは延々、400頭以上続くのである。
そんな風景を眺めながら、私の頭に
赤っぽいモノが浮かんできた。
(美味いんだろうな・・)
『食べますか?』
私の考えを見透かしたかのように、傍にいた係員が声をかけてきた。
「買えるんですか?」
『買えます』
「一頭?」
『いえ、グラムで』
なんと、セリの日には、精肉を売ってくれると云うのだ。
『どれくらいいきます?』
「い、い、一キロほど」
買ってしまった。
ずしりと重い塊が、脇の下に隠れている。
その時、旅立つべく引かれてゆく子牛が振り返った。
その眼が、私の脇の下を睨んでいる気がした。
(がんばれよ)
つい心の中で言ってみたものの、
何を頑張らせるのか、うまく説明できず・・
混乱した私の頭は、
ひたすら、フライパンの待つ宿へ急いだのだった。
涎を垂らしながら・・
ダラダラダ~ラァ ダ~ラァ~