
「ウンゲっち、言うなちゅうたろうが!」
一昨日、昨日とエンゲの話をしていた。
すると、中学一年の時に同級生だった友人の、
お馬鹿な話を思い出したのだ。
彼の名は、西野君という。
私と同じ野球部に入部してきたばかりだった。
西野君には、
口癖があった。
喋りの冒頭に、必ず出てくる単語がある。
「ウンゲ・・」
大分弁で、「いいえ」とか、「そうではなくて」とかの意だ。
ウンゲは興奮すると、「
ンゲ」にも変化する。
その会話は、西野君と3年生の先輩との口論だった。
先輩 『西野!今日、走るのさぼったやろが!』
ニシノ 「ウンゲ、さばっちょらん」
先輩 『ウンゲっち言うな!』
ニシノ 「ウンゲ、言うちょらんき」
先輩 『じゃき(だから)、ウンゲっち言うなっちゃ!』
ニシノ 「ウンゲ、言うちょらんちゃ」
先輩 『じゃき、言うなっちゃ』
ニシノ 「ウンゲ、ウンゲ、言うちょらんちゃ」
(いえ、いえ、言ってませんて)
西野君は、ふざけているワケではない。
本気で反論している。
本人は、ウンゲと言っている自覚がない。
口癖なのだから、ウンゲと喋っている事すら気付いていない。
大人ならいざ知らず、
12才の少年に、口癖の自覚を促すのも酷だろう。
これは、スポーツ選手の、あの口癖に似ている。
「そ~ですねえ、今日の試合では~」
インタビューをされると、話しの冒頭に、口癖の、
「
そ~ですねえ」が必ず付いてくる。
本人は、そ~ですねえ、と喋っている感覚はない。
1分のインタビュー中、10回も、
「そ~ですねえ」と話し始めているにも拘わらずだ。
先輩 『言うちょるじゃねえか、ウンゲっち!』
ニシノ 「ウンゲウンゲ、言うちょらんちゃ」
先輩 『バカにしちょんのか!』
ニシノ 「ンゲンゲ、言うちょらんけん」
先輩 『今度、ウンゲっち言うたら殴るど!』
ニシノ 「ンゲンゲンゲ、言うちょらん言うちょらん!」
先輩 『こらあ~~!』
ニシノ 「ンゲンゲンゲンゲンゲンゲ~ンゲンゲ~」
この一部始終を、一緒に叱られていた、
直立不動のけんじろう君が見ていた。
そして、先輩と西野君のこの闘いは、
一ヶ月続いたのであった。
「ウンゲ!」