
「シイラ釣りに行きませんか!」
興奮した連絡がくる。
連絡を受けたのは、山に登っている最中だった。
なんでも、シイラが沸いているらしい。
海に棲む魚で、
コレは美しいと皆が褒めたたえる魚の筆頭、シイラ!
私は、今山にいる。
確かに、シイラの頭は、ダイヤモンドヘッドのように、
盛り上がった山型である。
関係がなくもない。
「ほんじゃ、員数って事で・・」
員数に入れられた私が、朝の5時に、波頭の船着場にいた。
14人のシイラに魅せられた男たちが揃った。
薄暗き波止場にうごめくアヤシイ男たち。
いずれも、狩猟の匂いがプンプンしている。
なるほど、
シイラ釣りとは狩りなのか!
狩りモードに入った船が、鼻息荒い男どもを乗せて、
相模湾(かながわ)を走り回る。
なんせ、どこにいるかわからないシイラ。
とはいえ、いる場所は、あらかじめ分かっている。
《パヤオ》(漁礁)
直径1mほどのブイを浮かべ、
ロープで海底うん百mに結び付けている。
たったそれだけの事で、魚の群れが集まる。
特にシイラは、棲みかにしている。
数百匹、いや以上の群れが、泳ぎまわっている。
「はい、どうぞ」
船長の合図に、おのおの竿を出す。
竿からテグスが伸びている。
テグスの先には、本来エサがついている。
しかし・・・
魚にとっては、エサに見える、
しかし人間側から見ればインチキきわまりない、
ルアーという名の、疑似餌が付いている。
それは、金属であったり、ゴムであったり、
プラスチックであったり・・・
魚たち彼らが、最後の晩餐とするには、
あまりにもワビシク哀しい食べ物である。
せめて、最後の食事くらいは、
海老だのイカだの、サバだのといった、
旨いモノを口に入れて欲しかった。
「あ~~うんめぇ~」
と、最後くらいは、堪能して欲しかった。
しかし・・
我らが、彼らに与えた喜びは、忙しく動き回るエサである。
猫が、猫ジャラシにじゃれるのと変わらぬエサである。
しかして・・
シイラは、次から次と騙され続け、
船の中にポンポン取り入れられるのである。
土佐の一本釣りのカツオ船の、
ボンボン釣りあがる様子にやや似ている。
大きな違いは、カツオ船のカツオは、
すべて船室に納められるが、
我らがシイラは、ほとんどが、海に還される。
「もっと大きくなって又釣れてネ」
の思いもさることながら、
カツオの様に、
食べてホッペタが落ちる魚ではないので、
持って帰ろうという気持ちが湧かないのである。
「えっ、いらないんですか?」
誰よりも大きなクーラーボックスを抱えた私が、
喉仏をゴックンしながら、
釣れあがったシイラの周りをうろつく。
「えっ、いただいていいんですか?」
たぶん私は、こう呼ばれていたと思われる。
《ハイエナ》
